ホームベーカリーの性能の違いが、旨さの決定的差ではないということを教えてやる!

これをお読みの兄貴、姉貴の皆さまにおかれてはきっと表題は池田秀一さんの声で再生されていると思う。
そう「ホームベーカリーの性能の違いが、旨さの決定的差ではないということを教えたい」というのが今回の記事の主旨だ。
心して読むといい(声:池田秀一)。
と、書き出してみたもののお読みいただく皆さんに終始池田さんの声で脳内再生するのを強いても疲れてしまうだろうし、何より僕が書いてて疲れてしまうのでやめることにする。
National SD BT102
さて今回はサムネにもある通り家で稼働しているホームベーカリーを記事にしたいと思って実機を撮影した時に「そういやコイツとの付き合いも長いな、買ったのっていつだっけ?と疑問に思ったのが始まりだ。
その昔、干しぶどう酵母を自分で作ってそれでパンを焼くことに執心していた時期があり、その時に「ホシノ天然酵母」という麹からくるほんのり甘い香りと風味が特徴のパン焼き用の酵母があることを知り、さらにそのホシノ天然酵母を使って焼ける機能が搭載されたホームベーカリーが出たぞ、と聞いて飛びつくように購入したのがコイツ。

National SD BT102 モビルスーツの型番みたいだな。
げ、まだNationalブランドの頃に買ったんだ、発売っていつだっけ?と調べたら1999年、アンゴルモアの大王の来る来る詐欺の年じゃんリアルに四半世紀前じゃん、と軽くメマイを感じるも「25年もずっと壊れずに元気に働いてくれている」ことに気づいてみたりする。
25年を経て現在、NationalはPanasonicとなり、SD BT102は当たり前だけれどその製造を終えている。そして当然ながらその魂を引き継いだ後継機達に比べて機能的にはだいぶ落ちる。今のモデルとかブドウとかナッツの自動投入とかしてくれるし、焼けるパンの種類もすごい数になってる。
ハイエンド機種になると、ジャムやコンポート、甘酒、餡子……え、お餅とかも出来るのかよ。すげぇな。
それに比べると、さすがに25年前の機種となると、普通のパンとフランスパンくらいしかコースはない。……ないのだが、じゃあそのジャムモードやらお餅モードやら、多彩なパンのコースをくまなく使うかといえばほとんどの人は多分そんなことはなく、ソフト食パンとか早焼きとか決まったコースしか使わないのじゃないだろうか。
自慢じゃないが僕も「ホシノ天然酵母コース」は一度しか使ったことがなく、しかもそんなに上手に焼けなかった記憶がある。それはそれでどうかと思うが。
でも、ホームベーカリーって極論だけれど「捏ねて発酵させて焼ける」という機能があればそれで事足りるといえば足りるのだ。要はその機能に合わせたレシピを工夫して考えればいいのであって、ここで
「ホームベーカリーの性能の違いが、旨さの決定的差ではないということを教えてやる」
に繋がるわけですよ。
ホームベーカリー市場の絶対強者、Panasonic
ホームベーカリーを製造、販売しているメーカーはPanasonicの他にもアイリスオーヤマ(オーヤマどこにでも顔出してくるな)や象印、タイガー魔法瓶など大手に加え、中小の家電メーカーを含めるとかなりの数がある。シロカとか調理家電専門のメーカーも多くの機種を出しているのに、だがしかし。価格.comなどで売り上げランキングを見てみるとPanasonicが圧倒しているようである。象印やタイガーなど炊飯器に強いメーカーを差し置いてトップを走っていられるのは、ホームベーカリーを日本国内で初めて製造、販売したのが松下電器(現Panasonic)だったことは大きいのではなかろうかと推察する。

僕がSD BT102を買った時は確かヨドバシだったと思うが、他のメーカーと迷った記憶がまったくない。ホシノ天然酵母コースが目当てということもあったろうけれど。確かヨドバシの店舗には他のメーカーはほとんど陳列されていなかったんだよな。
そしてネット売りが当たり前になった現代においてもPanasonicがダントツに強い。ええいPanasonicのホームベーカリーは化け物か、と池田秀一さんでなくとも叫びたくなるというものだ。
高級生食パンという謎のブーム
しっとり、どっしり、甘さ際立つ高級生食パン。大阪に本店を置く「乃が美」の「生」食パンが火付けとなって一大ブーム、謎のフランチャイズ展開により珍妙な店名で最大350店舗まで広がるも……という件は検索すれば出てくるので気になる人はそちらを見てもらうとして、生食パンである。
「生なんとかブーム」の始祖って生チョコだった気がするけど、ほとんどの「生なんとか」は生じゃないじゃん、的なやつだったりする。生ドーナツとか腹壊すわ、とか思っちゃわない?個人的に好きなミームは「生チャーハン」=「それ卵かけご飯じゃん」であってそれだけは許すけど。
その生食パンも「生要素ねーじゃん」と、加えてしゃらくせぇフランチャイズ展開に辟易(へきえき)して当時は食べずにいた。
そんな折、近くのスーパーのテナントに入っているパン屋でいわゆる生食パンが売れ残り半額になっていたので(それでも高い値段ではあった)それならいいかと買って食べてみたのだが「甘くて密度が強いだけのただの食パン」だった。妙ちくりんな店名のそれと同じ味かと言われればそっちは食べたことがないのでわからないのだが、おそらく似たような味だろう。
と言えるのも、実はこの生食パンの作り方、わりと単純な理屈で成り立っていることが一般に知られていたりするからだ。
生クリームましまし発酵弱め
高級生食パンの元祖とも言える「乃が美(のがみ)」。
その乃が美が「生クリームやマーガリン、水を加えてゆっくり練り、生地を休ませる」と公式サイトで言及している。
クリーム成分と水分ましましというその理屈を聞いてしまえば「水分とクリーム多めならそりゃしっとりもするだろうさ」ということは普段パンを焼いている人ならばわかるっちゃわかる。なんというか透明のコップを500円玉が貫通するマジックの種を知っちゃった、みたいな感じに近いのかもしれない。
とはいえ、あのきめ細やかな食パンを「お店で売れるほどの数を、品質を一定にして焼き上げ続ける」ことは練りと発酵のコントロールが難しそうで大変苦労もあるのだろう、という想像もまた普段パンを焼いている人にはよくわかる話で、そこには純粋に頭が下がる思いだ。というリスペクトを乃が美にしたところで本題にはいろう。
粒の大きいレーズンは生食パンと相性が悪いのか
生食パンや低糖質パンがおまかせでおいしくできるホームベーカリー。
生食パンに適した「リッチ パン・ド・ミ」メニューを搭載。
Panasonicのハイエンド機である「SD-MDX4」にはこの「生食パン」のコースが搭載されており、乃が美が監修しているレシピも「おうち乃が美」としてPanasonicホームベーカリー公式サイトにも掲載されている。さすが最新型だ。僕の持っている「SD-BT102」はと比べると、わかりやすく例えればRX-78ガンダムとRX-0ユニコーンガンダム3号機フェネクスくらいの差がある。なるほど例えがわかりにくいわ、ごめん。だって型番がモビルスーツっぽいからさ。
「おうち乃が美」とは…乃が美が家庭のホームベーカリー用に開発した「生」食パンレシピです。乃が美の高級「生」食パンのレシピとは異なります
※乃が美の高級「生」食パンレシピは公表しておりません。
とあって、わかりやすく例えて言うなら「『本家乃が美のレシピ』はGQuuuuuuXであって『おうち乃が美』は黒瀬建設ザクなんじゃ」ってことだろう。え、この例えはわかりやすいだろう旬だぞ旬!
ところが、この「おうち乃が美」のレシピ、イチジクや干し芋を混ぜ込むレシピはあるけれどレーズンパンのレシピがない。そのイチジクも見ると「5mm角以下に刻む」とある。他の混ぜ込む食材も5mm以下となっているところをみると、粒の大きなレーズンなどはこのレシピに向かない、と乃が美が判断したのかもしれない。

そしてレーズンの生食パンを販売しているお店はちらほらあるようではあるけれど、webでレシピを検索してもあまり出てこない。こうなると検証も兼ねて生食パンにレーズンを混ぜるレシピを確立してみたくなるってもんでしょ。
よし。目指す焼き上がりは「突き抜けるほど美味いレーズン生食パン」。
ホームベーカリーの性能の違いが、旨さの決定的差ではないということを教えてやる!
生食パンの配合
ではあらためてそのホームベーカリー用の生食パンレシピを見てみよう。

・強力粉(イーグル)250g
・無塩バター(よつ葉乳業)15g
・砂糖(三温糖)35g
・塩(ぬちまーす)5g(小1)
・生クリーム(乳脂肪分35%)40g(約40mL)
・水※室温25℃以上のときは、約5℃の冷水を10g(mL)減らして使う。 160g(mL)
・ドライイースト(金サフ)1.4g
とあって、生クリームはまぁ聞いていたからそんなもんだろうと心構えていたのだが問題は砂糖の量だ。
35gって、おそらく普通の食パンコースで適量とされているのが15g~20g程度なのでなんとその倍近く使うと申すか、ほうほう。そりゃ甘くもなるさってもんだ。
反対にイーストの量が通常のホームベーカリーレシピが3gの約半分、加えて冷水を使えとある。これはイーストの過剰発酵を防ぐためと思われる。冷水をことさら強調していることを考えるとあのしっとり感を醸(かも)すには発酵し過ぎは禁物、ということなのだろう。
旧型にはない「リッチ パン・ド・ミ」
旧型には「リッチ パン・ド・ミ」のコースなんてものはないため、レーズンパンのコースを選ぶことになる。
おそらく生食パンは「じっくり捏ねてゆっくり発酵させて弱火で焼く」が基本であると推察できるけれど、レーズンパンのコースじゃそんな繊細な捏ね具合と火加減を期待するのは無理というもので、つまりそのあたりを考慮して「おうち乃が美」のレシピをアレンジする必要がありそうだ。
まず、旧型は火加減が強く調整が難しいということ。これは受け入れないとどうしようもない。ということは生食パンの特徴である「耳まで柔らか」は諦めてしまい、中身の食感だけに注力することにすればいいかな?選択と集中、というやつだ。
火が強い分、生クリームを多くし、イーストの発酵も少し強めにする。そうすれば耳の部分はおそらく少し焦げるくらいの焼き加減にはなってしまうだろうけれど中は生食パンのそれに近しいものになる……はずだ。

と、いうわけで生クリームを40gから50g、イーストを1.4gから2gと増量し、水は氷水、生クリームはキンキンに冷やして過発酵を徹底的におさえる。加えてこの生食レーズンパンを焼いた日は2月の寒い曇りの日。最新鋭機SD-MDX4に四半世紀前の名機SD-BT102で一閃を食らわすにはよい条件がそろった。
よし、これで生地はいけるはずだ。覚悟してもらおうSD-MDX4。
レーズンにこだわって唯一無二のブドウパンを目指す
普通のホームベーカリーレシピでは「レーズン60gを入れる」程度の記載しかないのだが、その通りに作ると何というか「パンの中にレーズンがただいるだけ」という感じになる。
レーズンの粒がくっきりしてい、それが好きだという人もいるだろうけれど僕はどちらかというととろけるようなレーズンのほうが好みだ。でもレーズンの粒に僕!レーズン!です!と主張してほしい気もする。我ながらわがままだな、と思うがこれ両立できないものだろうか。
この二つの条件を同時に満たすような干しブドウの種類があるのか?と不安になるも、何もレーズンの種類は一つに限定されているわけじゃないよな、と気づく。
そう、皮の硬い種類と柔らかい種類が混在していればとろけるような部位と粒のくっきりした部位、両方の味を楽しめるに違いない。

カリフォルニアレーズンの「フレームシードレス」「クリムゾンシードレス」「ゴールデントンプソン」の三種類が入った干しブドウだ。どの種類も皮ごと食べる種類らしいが、うちフレームシードレスはいわゆる赤ブドウで、実が硬めらしい。さらに干されたことによって皮がだいぶ主張しているように思える。これはある程度の食感を遺してくれると期待できる。
ゴールデントンプソンは皮が緑色で薄い種類のようで、こちらは逆にパンにしっとりととろけるように馴染んでくれるのではないだろうか。クリムゾンはその中間といった感じだ。今回はこれでいってみよう。そしてノンオイルなのでレーズンパンにはうってつけだ。

熱湯に少しつけて、実にすこし水分を戻す。湯通しをしない派の人も多いようだが、僕は断然お湯派だ。
さらに、ふっくらと戻ったらしっかりと水分をふきとって、されにそこにラム酒をふくませて香りを豊かにする。
今回使ったラム酒はなんと日本産、しかも小笠原諸島で作られているいわゆる「地酒」だ。ラム酒が地酒ってかっこいいよな。沖縄や鹿児島でもラム酒は作っているけれど、地酒がラム酒ってのは多分小笠原だけだ。

Bonin Islandsってなんじゃ、と思って調べてみたら小笠原諸島のことらしい。ヨーロッパの地図製作者が日本の地図にあった「無人島(ぶにん・とう)」を英語風に転写し「Bonin」となったんだと。知らなかった。

レーズンを漬けたお酒は飲んだりせずに廃棄すること。日本の酒税法でブドウに漬けたお酒を飲んだりすることは禁止されています。
でも漬けたレーズンはお菓子扱いなのでよいんですと。不思議~って感じがするけれど、これを認めちゃうと誰でも簡単にお酒が作れてしまうようになっちゃうからダメらしい。日本ではお酒の製造、販売は免許がいるし酒税も関わるからね。
そしてこれ、はちみつを入れてもともと甘いレーズンをさらに甘さマシマシチャージ。甘さもそうだけれど香りをより高めるために入れてみよう。
さて、これでレーズンの仕込みも終わった、いざ焼かん。
材料を入れたらあとは待つだけ
材料を入れてスイッチオン。がっどんがっどん、と捏ねが始まって、しばらくするとピピっとレーズン投入の合図があるのでそこでレーズンを投入。

この焼き上がり前の15分くらい前からただよう、焼き立てパンの香りは本当によい。嗅ぐと幸せホルモンがどわぁと出るのがわかるくらいだ。
昔一人で住んでいた頃、寝る前にタイマーをセットして焼き上がりの時間を起きる時間に合わせて、この香りを目覚まし代わりにしてたくらいだ。ちょっと捏ねる音がうるさいけど。
さて焼き上がりは……

本来、ソフト焼き上がりコースだと焼き容器から溢れるくらいがっつり膨らむのだが、これは狙った通りの膨れ加減な気がする。きっと中身はしっとり甘い焼き上がりに違いない。胸熱だぜ。

周りはというと、皮がちょっと焦げている。やっぱり火が強いんだろうな。でもこれは想定内だ。

中身がこちら!
カットするパン切包丁の刃の進み具合でわかる、しっとり感。おおいい感じ、普通のコースで焼くパンよりも密度が高く、しっとりとしている。
そしてレーズンの具合だけれど、
・ゴールデントンプソンはほぼ溶けて生地の中でその姿がほぼ見られない
・フレームシードレスは生地と皮の境界がしっかりとあって粒感を遺している
・クリムゾンシードレスはその中間、生地に半分溶けている
と、おおよそもくろみ通りの仕事をしてくれているっぽい。やったぜ。
さてその味は……
肝心の食感だけれど、こちらは残念ながら市販品の生食パンに比べると若干きめの細かさが劣っているようだ。が、比べれば、という前提がなければ十分にしっとりとした手触り、歯触り、舌触りの出来栄えではないかと思う。
そして香り。レーズンとハチミツとラム酒の香りがふわっと漂ってこれも想像通りでよい。

味のほうは……フレームシードレスが生地に溶けていることでパン全体がほんのりと甘いブドウ味に包まれ、僕の望んだ「ぶどうパン」以上の出来だ。
ただ、これだけ砂糖が入ってればそりゃ甘いよなぁという感じではある。でも甘いのだが決して嫌な甘さではなく、なんというか甘さ控えめなケーキくらいだ。うむ、これパンとケーキの中間くらいに位置するんじゃないだろうか。卵を生地に練りこめばよりケーキに近づく気がする。今度やってみよう。
といったところで、全般想定通り、あるいはそれ以上の出来映えのパンを焼き上げられた、と言っていいんじゃないかな。他にジャッジする人もいないしね。いい張った者勝ちだ。
少なくとも78ガンダムがフェネクスの尻尾をビームライフルで打ち抜いてちょっと短くした、くらいのことは出来たと思う。だからわかりにくいってごめん。

そして朝からお気に入りのウィスキーで週末休みを迎えるのもいい。
ブドウパンの甘さとウィスキーのスモーキーな香りがとても仲が良くgoodだ。もちろんブランデーも合うだろうけれどね。あ、試してないけれど小笠原ラムも当然相性よいはず。牛乳もコーヒーも紅茶もなんでも来いな感じのどっしりとしているのになめらかな食感、しっかりとした甘さが頼もしいこの生食レーズンパン。小賢しい最新機能なんてなくても十分に焼き立てパンを楽しめることを証明できた気がする。
このように、何か思いついたらオリジナルのパンを焼けるホームベーカリー。ハイエンド機の「SD-MDX4」でなくとも、十分にパン焼きが楽しめるので、ぜひ試してみてください。日々疲れてるなぁと感じている人はぜひこのホームベーカリー焼き上がり目覚ましを試してみてほしい。土曜日のけだるい朝もパンの香りでばっちり起きることができて、これホントにおすすめ、少々のブルーな気分ならオーバーキルできるくらいの幸せ感に包まれること間違いなし、です。
……旧型はお餅作れないけどな。